レーザー溶接の価格について調べている方の多くが「高そう」という印象を持っているかもしれません。確かに一般的な溶接方法と比べて初期費用は高くなる傾向がありますが、その価格にはしっかりとした理由があります。
この記事では、レーザー溶接の価格を決める要因から、他の溶接方法との費用対効果の比較まで、製品開発や設備導入の担当者が知っておくべき情報を分かりやすく解説します。価格だけでなく、トータルコストの観点から最適な判断ができるよう、ぜひ参考にしてください。
レーザー溶接の価格を決める4つの要因

レーザー溶接の価格は、複数の要因が組み合わさって決まります。これらの要因を理解することで、見積もりの内容を正しく判断できるようになり、コストパフォーマンスの良い選択ができるでしょう。
ここでは、価格を構成する主要な4つの要因について、具体的に説明していきます。
①価格の土台となる「設備費」
レーザー溶接の価格が他の溶接方法より高くなる最大の理由は、設備費の影響です。レーザー発振器や精密な制御装置、冷却システムなど、高価な機器が必要になるためです。
精密な制御盤や筐体の製造に使われるような産業用のレーザー溶接装置は、一般的に数千万円から数億円の投資が必要となります。
設備費の影響を受けやすいのは小ロットの加工で、数量が増えるほど単価あたりの設備費負担は軽減されます。そのため、量産品では思っているより価格差が意外と小さくなるケースもあります
②加工の難易度を決める「材質」と「板厚」
使用する材質によってレーザー溶接の難易度が変わり、価格にも大きく影響します。鉄やステンレスは比較的加工しやすく標準的な価格ですが、アルミニウムや銅などの高反射材は特殊な条件設定が必要で価格が上がる傾向があります。
板厚についても重要な要因の一つです。薄板(1mm以下)では高速加工が可能で単価は抑えられますが、厚板(5mm以上)では加工時間が長くなり、より高出力のレーザーが必要になるため価格が上昇します。
材質と板厚の組み合わせによっては、レーザー溶接が最適ではない場合もあるでしょう。事前に加工業者と相談し、最適な加工方法を選択することが重要です。
③加工時間を左右する「溶接の長さ」と「形状」
溶接する長さと形状の複雑さは、加工時間に直結するため価格に大きく影響します。直線的な溶接は高速で処理できますが、曲線や複雑な軌跡では速度を落として精密に加工する必要があるためです。
特に3次元的な形状や、位置決めが困難な箇所の溶接では、段取り時間も含めて工数が増加します。また、溶接箇所が多い場合や、機械が入りにくい位置にある場合も価格に影響するでしょう。
形状が複雑になるほどレーザー溶接の精密性というメリットが活かされますが、同時にコストも上昇することを理解しておくことが大切です。設計段階で溶接箇所や形状を最適化することで、品質を保ちながら価格を抑えられます。
④段取りと量産効果に関わる「数量(ロット)」
加工数量は価格に最も大きな影響を与える要因の一つです。レーザー溶接では初回の段取り(治具作成、プログラム作成、条件出し)に時間がかかるため、少数生産では単価が高くなりがちです。
しかし、同じ製品を大量に加工する場合、段取り費用を数量で割り算できるため単価は大幅に下がります。さらに、自動化により人件費も削減できるため、量産では非常にコストパフォーマンスの良い加工方法となるはずです。
一般的に、数十個以上の加工では他の溶接方法と比較してコスト面でもメリットが出始めることが多いといえます。試作段階から量産を見据えて検討することで、トータルでの最適化が可能です。
他の溶接方法との価格比較とトータルコスト

レーザー溶接を検討する際は、初期の加工費だけでなく、後工程や品質面も含めたトータルコストで比較することが重要です。一見高く見える価格も、全体最適の観点から見ると実は経済的な選択となる場合が多くあります。
ここでは、具体的な比較ポイントと隠れたコスト削減効果について説明します。
TIG溶接との初期費用の違い
一般的に、レーザー溶接の初期加工費はTIG溶接の1.5〜2倍程度高くなることが多いとされています。例えば、TIG溶接で100円の加工費がかかる場合、レーザー溶接では150〜200円程度になる計算です。
この価格差の主な理由は、先ほど説明した設備費の違いと、高度な技術を持つオペレーターの人件費が含まれるためです。また、レーザー溶接では消耗品費用は少ないものの、電気代や冷却コストなどのランニング費用が加算されます。
ただし、この初期費用の比較だけで判断してしまうと、重要な要素を見落とすことになりかねません。実際の製品製造では、後工程での追加作業が必要になることが多いためです。
後工程費用を含めたトータルコスト比較
レーザー溶接の本当のメリットは、後工程費用まで含めた比較でわかります。TIG溶接では熱による歪みが発生しやすく、歪み取りや仕上げ研磨に追加費用がかかることが一般的です。
例えば、TIG溶接では初期の加工費が安くても、後工程で歪み取りや仕上げ研磨に大きな費用がかかることがあります。一方、レーザー溶接では初期費用は高めでも後工程の費用を大幅に抑えられるため、最終的にはレーザー溶接の方が経済的になるケースも多いのです。
特に薄板や精密部品では、この差が顕著に現れます。レーザー溶接の熱影響が極めて小さいため、後工程での修正作業を大幅に削減できるでしょう。
「手直し・作り直しの削減」で目に見えないコストを削減
レーザー溶接による品質向上は、手直しや作り直しによる隠れたコスト削減にもつながります。従来の溶接で発生しがちな不良品は、材料費・人件費・納期遅延など、さまざまな損失を生み出しています。
レーザー溶接では溶接条件が数値制御されているため、品質のばらつきが少なく安定した結果が得られます。不良率の低減により、検査工数の削減や顧客クレームの回避といった効果も期待できるはずです。
また、精度の高い溶接により組み立て工程でのトラブルも減少し、全体的な製造効率向上につながります。これらの効果は直接的には見えにくいものの、長期的には大きなコストメリットとなるでしょう。
制御盤・筐体でレーザー溶接が選ばれる価格以外の理由
制御盤や筐体の製造において、レーザー溶接は価格以上の価値を提供します。特に電子部品を内蔵する精密機器では、溶接品質が最終製品の性能や信頼性に直結するため、その価値は計り知れません。
ここでは、制御盤・筐体特有のメリットと、それがもたらすコスト削減効果について詳しく説明します。
組み立て精度向上による工数削減効果
制御盤や筐体では、溶接による歪みが組み立て工程に大きな影響を与えます。歪んだ筐体に精密な電子部品や基板を取り付ける場合、位置合わせに余計な時間がかかったり、無理な力を加えて取り付けることになりかねません。
レーザー溶接による高精度な加工により、組み立て時の位置決めが簡単になり、作業時間の短縮が実現できます。また、部品同士の組み合わせ精度も向上するため、組み立て不良の発生率も大幅に下がるでしょう。
この効果は特に複雑な内部構造を持つ制御盤で顕著に現れ、組み立て工数の削減により製造コスト全体の最適化につながります。価格差以上の価値を生み出す重要な要素といえるのです。
電子部品への熱影響を最小化する価値
制御盤や筐体に使用される電子部品は、熱に非常に敏感です。従来の溶接方法では広範囲にわたって熱が伝わるため、内部の電子部品に悪影響を与える可能性があります。
レーザー溶接では熱影響部が極めて狭く限定されるため、近接した電子部品への影響を最小限に抑えられるはずです。これにより、電子部品の性能劣化や寿命短縮を防ぎ、製品全体の信頼性向上に貢献します。
特に高密度実装された基板の近くで溶接作業が必要な場合、この特性は非常に重要になります。電子部品の交換や修理コストを考慮すると、レーザー溶接の価格は十分に納得できるものでしょう。
品質トラブル防止による隠れたコスト削減
制御盤や筐体では、溶接不良が原因で発生する品質トラブルは深刻な問題となります。例えば、溶接部の強度不足により内部部品が脱落したり、位置ずれによる接触不良やショートが発生したりする可能性があるのです。
これらのトラブルは、製品の故障や安全性の問題につながり、修理費用や製品回収、顧客への補償など、莫大なコストを発生させることもあります。レーザー溶接による高品質な接合は、こうしたリスクを大幅に軽減できるはずです。
また、品質の安定性により検査工程の簡素化も可能となり、製造工程全体の効率化にもつながります。長期的な視点で見ると、これらの隠れたコスト削減効果は初期投資を大きく上回る価値を提供するでしょう。
まとめ
レーザー溶接の価格は、設備費、材質・板厚、加工形状、数量という4つの主要因子によって決まります。初期費用だけを見ると高く感じるかもしれませんが、後工程費用や品質向上効果を含めたトータルコストで判断することが重要です。
特に制御盤や筐体の製造では、組み立て精度の向上、電子部品への熱影響最小化、品質トラブルの防止といった価格以上の価値を提供します。これらの効果は、製造工程全体の効率化と製品の信頼性向上につながり、長期的には大きなコストメリットとなるはずです。
レーザー溶接の価格を正しく評価するには、目先のコストだけでなく、製品全体のライフサイクルを通じた価値を考慮することが必要でしょう。精密板金と電気制御の一貫対応が可能な製造メーカーでは、こうした総合的な視点から最適な加工方法を提案しています。
レーザー溶接の導入をご検討の際は、豊富な経験を持つ専門業者にご相談ください。